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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1626号 判決 1963年4月10日

理由

一、訴外朴在浩が昭和三〇年七月一〇日訴外大丸屋住宅株式会社宛に、金額一、二〇〇、〇〇〇円、満期同年八月一〇日、支払地振出地とも京都市、支払場所福徳相互銀行京都支店なる約束手形一通を振出し、大丸屋住宅株式会社取締役社長森田寅雄はこれを白地裏書により控訴人に裏書譲渡し、控訴人はさらにこれを被控訴人に対し拒絶証書作成義務を免除の上裏書譲渡したこと、および被控訴人が右手形の所持人としてこれを昭和三〇年八月一一日支払場所において呈示し支払を求めたが支払を拒絶されたことはいづれも当事者間に争がない。

二、よつて、すすんで控訴人の抗弁について判断する。

(証拠)を総合すると、次の事実を認めることができる。

朴在浩こと三好泰助は昭和三〇年五月頃控訴人の仲介により被控訴人から自動車一八五二年型キヤデラツク一台を代金二、二〇〇、〇〇〇円で買受け、内金金一、一〇〇、〇〇〇円の支払の方法として同額の約束手形一通を振出し、これに大丸屋住宅株式会社取締役社長森田寅雄および控訴人の裏書をえて被控訴会社に差入れたところ、支払期日に右三好が支払えなかつたために金利一〇、〇〇〇円を加え額面一、二〇〇、〇〇〇円の書替手形として本件手形を振出したものであるが、本件手形もまた不渡りとなつたため、被控訴人は京都地方検察庁に対し三好泰助および控訴人を詐欺被疑者として告訴した。検察官はその取調中に右関係者一同に対し示談解決方を勧告したので、被控訴会社代表者阿部実、その代理人弁護士尾上実夫、三好泰助、森田寅雄が昭和三一年五月はじめ頃大丸屋住宅株式会社事務所に集つて協議した結果「(1) 本件手形の振出人たる三好は被控訴人に対しさきに代物弁済として提供したカメラ(ライカ)、電気冷蔵庫、テレビ各一台(右代物弁済の点は当事者間に争がない)のほかにさらに金一〇〇、〇〇〇円を支払う。同人に対する右手形金残額は同人の任意履行にまつことにする。(2) 右手形の裏書人たる大丸屋住宅株式会社取締役社長森田寅雄は被控訴人に対し金五〇、〇〇〇円を支払い、被控訴人は森田に対しては残余の本件手形債権は一切請求しない。(3) 以上による残債権については、控訴人との間で別途解決する。(4) 被控訴人は三好および控訴人に対する前記告訴を取下げる。」旨の示談契約が前記被控訴人、三好、森田の間において成立した。しかして右約定にしたがつて三好、森田がそれぞれ金一〇〇、〇〇〇円および金五〇、〇〇〇円を被控訴会社に支払つた(この点は当事者間に争がない)ので、被控訴人は昭和三一年五月一〇日三好および控訴人に対する前記告訴を取り下げた。

右認定事実によれば、被控訴人は右示談契約により、少なくとも本件手形の裏書人である大丸屋住宅株式会社に対して前記五〇、〇〇〇円の支払を受けることにより、その残債権を免除したものと解するのが相当であるから、手形上右訴外会社の後者である裏書人たる控訴人の債務は消滅したものというべきである。したがつて控訴人の抗弁は正当である。

三、してみれば、控訴人は被控訴人に対し本件手形金債務の支払義務がないことが明らかであるから、被控訴人の本訴請求は棄却すべきものであつて、これを認容した原判決を取り消す。

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